眼圧が上がる、最も一般的で、かつ、避けることのできない最大の原因。それが「加齢」です。年齢と共に、私たちの体の様々な機能が、徐々に衰えていくように、眼の中の房水を排出するための、精巧な排水システムもまた、例外ではありません。眼圧上昇を引き起こす緑内障の中で、最も頻度の高いタイプである「原発開放隅角緑内障(げんぱつかいほうぐうかくりょくないしょう)」の主な原因は、この加齢に伴う、排水路の機能低下にあると考えられています。眼の房水のメインの排水口である「線維柱帯(せんいちゅうたい)」は、コラーゲン線維などが、複雑に絡み合った、スポンジのような、立体的なフィルター構造をしています。若い頃は、このフィルターの網目がしなやかで、房水は、スムーズに、この網目を通過して、排出されていきます。しかし、年齢を重ねると、この線維柱帯の組織にも、老化現象が現れ始めます。細胞が、酸化ストレスなどによってダメージを受け、その数が減少したり、細胞外に、余分な物質(細胞外マトリックス)が、蓄積したりすることで、フィルターの網目そのものが、硬くなり、目詰まりを起こしてくるのです。これは、長年使ってきた、キッチンのシンクの排水口のフィルターが、徐々に、汚れやヘドロで詰まっていき、水の流れが悪くなるのと、全く同じ原理です。蛇口から出てくる水の量(房水の産生量)は、変わらないのに、出口の流れが悪くなるため、シンク(眼球)の中に、水が溜まり、水圧(眼圧)が、ゆっくりと、しかし、確実に、上昇していきます。このプロセスは、非常に緩やかに、何年、何十年という、長い年月をかけて進行するため、初期の段階では、全く自覚症状がありません。40歳を過ぎた頃から、緑内障の発症率が、急激に増加するのは、この加齢による、排水路の、静かなる劣化が、背景にあるのです。