視神経が、高い眼圧によって、少しずつ死滅していくと、私たちの「見え方」には、どのような変化が現れるのでしょうか。その結果として生じるのが、「視野欠損」、つまり、見える範囲の一部が、欠けてしまう、という症状です。そして、この視野欠損の現れ方こそが、緑内障が「サイレント・シーフ・オブ・サイト(沈黙の視力泥棒)」と呼ばれる所以です。視神経の障害は、多くの場合、視野の中心部ではなく、自分では、ほとんど意識することのない、視野の「周辺部」から、始まります。例えば、鼻側の、やや上方といった、普段、全く気にすることのない場所から、小さな「暗点(あんてん)」、つまり、見えないスポットが、ポツンと現れるのです。しかし、私たちの脳は、非常に優秀な画像処理エンジンを備えています。片方の眼の視野が、少し欠けたとしても、もう片方の眼が見えている情報で、それを、巧みに補完してしまいます。また、私たちは、無意識のうちに、常に、眼を、キョロキョロと動かしているため、この小さな暗点の存在に、気づくことは、まず、ありません。病気が進行し、これらの暗点が、徐々に、繋がり、大きくなってくると、やがて、「視野の端の方から、黒いカーテンや、影が、だんだんと、中心に向かって、広がってくる」といった、自覚症状として、現れ始めます。しかし、この段階に至っても、まだ、中心部の視力(視力検査で測る、一番よく見える部分の視力)は、良好に保たれていることが多いため、「気のせいだろう」「疲れているだけだ」と、見過ごされてしまいがちです。そして、病状が、さらに進行し、この視野の欠損が、ついに、中心部にまで及んで、初めて、「なんだか、文字が読みにくい」「人の顔が、よく見えない」「階段で、足を踏み外しそうになる」といった、日常生活における、明確な支障として、自覚されるのです。しかし、この時には、すでに、多くの視神経が、失われてしまっているのです。気づいた時には、手遅れ。これが、高眼圧がもたらす、視野欠損の、最も恐ろしい犯行手口です。
視野が欠けていく、「沈黙の視力泥棒」の犯行手口