これまで紹介してきた病気が、主に、ゆっくりと進行する「慢性」の疾患であったのに対し、ある日突然、発症し、数日から、時には、数時間という、極めて短期間のうちに、失明に至る危険性がある、眼科の「救急疾患」。それが、「網膜剥離(もうまくはくり)」です。網膜剥離とは、眼球の内側を覆っている、フィルムの役割を果たす「網膜」が、その土台である「網膜色素上皮」から、文字通り、剥がれてしまう病気です。壁紙が、壁から、ベロリと、浮き上がってくる状態を、イメージすると、分かりやすいでしょう。網膜は、土台の組織から、酸素や、栄養の供給を受けて、その機能を維持しています。しかし、一旦、剥がれてしまうと、栄養が途絶え、光を感じる「視細胞」は、時間と共に、急速に、そして、不可逆的に、その機能を失っていきます。この網膜剥離の、典型的な前兆となるのが、「飛蚊症(ひぶんしょう)」の、急激な悪化です。視界に、黒い点や、ゴミのようなものが、突然、大量に現れたり、ススが、舞っているように見えたりします。これは、網膜に、裂け目(網膜裂孔)ができて、そこから、わずかに出血したり、網膜の細胞が、散らばったりしている、危険なサインです。また、網膜が、硝子体に、引っ張られる際の刺激で、視野の端に、閃光が走る「光視症」を、伴うこともあります。そして、実際に、剥離が始まると、「視野欠損」が現れます。視野の端の方から、まるで、黒いカーテンや、影が、だんだんと、中心に向かって、覆いかぶさってくるように、見えなくなっていきます。このカーテンが、視力の中枢である「黄斑」にまで、達してしまうと、視力は、急激に低下し、物が、歪んで見えたりします。網膜剥離の治療は、原則として、緊急の「手術」です。特に、まだ黄斑が、剥がれていない状態であれば、その日のうちにでも、手術を行い、黄斑を、守らなければなりません。もし、黄斑が、剥がれてしまうと、たとえ、手術で、網膜が、元の位置に戻ったとしても、何らかの視力障害が、後遺症として、残ってしまう可能性が、高くなります。これらのサインは、あなたの眼が発する、最大の、そして、最後の、緊急警報です。