心臓に栄養を送る血管が詰まれば「心筋梗塞」、脳の血管が詰まれば「脳梗塞」。これと、全く同じことが、視神経でも起こり得ます。それが、「虚血性視神経症(きょけつせいししんけいしょう)」です。これは、視神経に、栄養と酸素を供給している、非常に細い動脈の血流が、何らかの原因で、急に途絶えてしまう(虚血)、いわば「視神経の梗塞」とも言える、極めて危険な状態です。虚血性視神経症は、ある朝、目覚めたら、片方の眼が、突然、ほとんど見えなくなっていた、という形で発症することが、典型的なパターンです。痛みは、伴いません。視野の、上半分、あるいは、下半分が、まるでカーテンが降りてきたように、完全に見えなくなる「水平半盲」という、特徴的な視野欠損が、多く見られます。この病気は、主に、視神経乳頭部への血流が障害される「前部虚血性視神経症(AION)」と、眼球の後方で、血流が障害される「後部虚血性視神経症」に分けられます。特に、問題となるのが、前者のAIONです。AIONは、さらに、二つのタイプに分類されます。一つは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙といった、動脈硬化の危険因子を持つ、50歳以上の人に多く見られる「非動脈炎型」。これは、視神経乳頭部の、細い動脈が、動脈硬化によって、詰まってしまうことが原因です。もう一つが、より緊急性の高い、「動脈炎型」です。これは、「側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)」という、全身の血管に炎症が起こる、自己免疫疾患(膠原病の一種)が、視神経の血管に及んだものです。こちらのタイプは、治療が遅れると、数日から数週間以内に、反対側の眼にも発症し、両眼が失明に至る危険性が、非常に高いことで知られています。そのため、急な視力低下に加えて、こめかみの痛み(側頭動脈の圧痛)や、物を噛んだ時の顎の痛み(顎跛行)、発熱、体重減少といった、全身症状を伴う場合は、一刻の猶予もありません。ステロイドによる、緊急の治療開始が、失明を防ぐための、唯一の方法となります。