「眼圧が高い」と指摘された際、それが「高眼圧症」なのか、それとも、すでに「緑内障」を発症しているのかを、正確に区別することは、その後の治療方針を決定する上で、極めて重要です。この二つの状態は、似ているようで、その意味は全く異なります。まず、「高眼圧症(Ocular Hypertension)」とは、眼圧測定値が、統計的な正常範囲(21mmHg)を超えているものの、眼底検査や視野検査では、視神経の損傷や、視野の欠損が、全く認められない状態を指します。つまり、現時点では、眼圧が高いという「危険因子」を持っているだけで、まだ「病気」には至っていない、いわば“緑内障予備軍”の状態です。一方、「緑内障(Glaucoma)」とは、眼圧が高いかどうかにかかわらず、視神経に、特徴的な形態の変化(視神経乳頭陥凹の拡大など)と、それに伴う、視野の欠損が、すでに生じてしまっている「病気」です。この二つの決定的な違いは、「視神経に、障害が起きているかどうか」という、一点に尽きます。血圧に例えるなら、高眼圧症は「高血圧」の状態、緑内障は、高血圧が原因で「脳卒中や心筋梗塞を起こしてしまった」状態、と考えると分かりやすいかもしれません。高血圧でも、全ての人が脳卒中になるわけではないように、高眼圧症でも、全ての人が緑内障に進行するわけではありません。では、高眼圧症と診断されたら、どうすれば良いのでしょうか。その対応は、緑内障へ進行するリスクの高さによって決まります。眼圧の数値、年齢、家族歴、角膜の厚さ、そして視神経の見た目などを、眼科医が総合的に評価し、将来的に緑内障を発症するリスクが、高いと判断した場合には、視神経を守るための「予防的治療」として、眼圧を下げる点眼薬が開始されます。一方、リスクが低いと判断された場合は、すぐには治療を開始せず、定期的な検査(半年に一度など)で、注意深く経過を観察していくことになります。高眼圧症と緑内障、どちらの診断であっても、専門医による、生涯にわたる、定期的な管理が不可欠であることに、変わりはありません。
高眼圧症と緑内障、似て非なる二つの状態