失明に至る病気の中で、最も、発症が、急激で、かつ、予後が、厳しいものの一つが、「網膜中心動脈閉塞症(もうまくちゅうしんどうみゃくへいそくしょう)」です。これは、眼の奥の網膜に、栄養と酸素を供給している、最も重要な動脈である「網膜中心動脈」が、何らかの原因で、完全に、詰まってしまう(閉塞する)病気です。いわば、「眼の心筋梗塞」や、「眼の脳梗塞」とも言える、極めて、緊急性の高い状態です。網膜の神経細胞は、酸素の供給が、途絶えることに、非常に弱く、血流が、わずか90分、完全に、途絶えただけで、不可逆的な、つまり、二度と、回復しない、深刻なダメージを、受けてしまうと、言われています。この病気は、ある日突然、何の、前触れもなく、片方の眼が、全く、あるいは、ほとんど、見えなくなる、という形で、発症します。痛みは、全く、伴いません。目の前が、急に、真っ暗になった、と表現されることが多いです。その原因の多くは、「血栓(けっせん)」、つまり、血の塊です。心臓の不整脈(心房細動)や、首の動脈(頸動脈)の動脈硬化のプラークから、剥がれた血栓が、血流に乗って、眼まで飛んできて、網膜中心動脈を、詰まらせてしまうのです。したがって、この病気のリスク因子は、動脈硬化を引き起こす、高血圧、糖尿病、脂質異常症、そして、喫煙といった、生活習慣病そのものです。治療は、時間との戦いです。発症後、数時間以内に、治療を開始できれば、視力が、回復する可能性が、わずかに、残されています。眼球マッサージや、眼圧を、急激に下げる薬の投与、あるいは、血栓を溶かす薬(血栓溶解療法)など、あらゆる手段を尽くして、一刻も早く、血流の再開を、試みます。しかし、残念ながら、多くのケースで、視力の回復は、極めて困難であり、失明、あるいは、明暗が、かろうじて分かる程度(光覚弁)に、留まってしまうのが、現実です。この病気は、眼の病気であると同時に、全身の、血管の病気の、危険なサインでもあります。発症した患者さんは、脳梗塞や、心筋梗塞の、極めて高いリスクを、抱えていることを意味するのです。
目の血管が詰まる、「網膜中心動脈閉塞症」という眼の心筋梗塞