視神経を脅かす、最も代表的で、かつ、日本における失明原因の第一位を占める、極めて深刻な病気、それが「緑内障」です。緑内障の本質は、この、眼と脳を繋ぐ、大切な視神経が、少しずつ、しかし、確実に、死滅していくことにあります。では、なぜ、視神経は、傷ついてしまうのでしょうか。その最大の危険因子とされているのが、「高い眼圧」です。眼圧とは、眼球の内部にかかっている圧力のことで、眼球が、その丸い形を維持するために、必要なものです。しかし、この眼圧が、何らかの原因で、正常範囲を超えて、高くなってしまうと、その圧力が、眼球の構造上、最も弱い部分に、集中してかかることになります。そして、その最も弱いポイントこそが、120万本の神経線維が、眼球壁を貫通して、脳へと向かう、出口の部分、すなわち「視神経乳頭」なのです。高い眼圧は、この視神経乳頭を、物理的に、じわじわと圧迫し、押し潰すようにして、ダメージを与えます。さらに、この物理的な圧迫は、視神経に栄養を供給している、周囲の毛細血管の血流をも、悪化させます。栄養と酸素が、十分に届かなくなった神経線維は、徐々に、その機能を失い、やがては、死滅(アポトーシス)してしまうのです。これが、緑内障で、視神経が障害される、基本的なメカニズムです。このプロセスは、非常にゆっくりと進行し、初期の段階では、全く自覚症状がありません。視野の欠損が、周辺部から、静かに始まり、気づいた時には、すでに、多くの神経線維が、失われてしまっている。これが、緑内障が「サイレント・シーフ・オブ・サイト(沈黙の視力泥棒)」と呼ばれる所以です。また、日本人には、眼圧が、正常範囲であるにもかかわらず、緑内障が進行する「正常眼圧緑内障」が、非常に多いことも、特徴です。これは、視神経そのものが、圧力に対して、遺伝的に「弱い(脆弱である)」ため、正常とされるレベルの眼圧でさえ、耐えきれずに、傷ついてしまうのではないか、と考えられています。