白内障の初期症状は、かすみや、まぶしさといった、見え方の「質」の変化だけでなく、私たちが認識する「色」の世界にも、静かな、しかし、確実な変化をもたらします。その代表的な症状が、「視界全体が、なんとなく、黄色っぽく、あるいは、茶色っぽく見える」というものです。若い頃に見ていたはずの、鮮やかな青空や、真っ白なシャツが、まるで、古いセピア色の写真のように、くすんで、色褪せて見える。色のコントラストも、全体的に低下し、淡い色の違いが、見分けにくくなる。この、色の感覚の変化もまた、水晶体の濁りが原因で起こります。白内D”症に”よる水晶体の濁りは、均一に、白く濁るだけではありません。特に、加齢に伴う白内障では、水晶体の中心部(核)が、黄色、さらには、進行すると、茶褐色へと、徐々に色づいていくという特徴があります。つまり、眼のレンズそのものが、まるで、黄色いセロハンや、サングラスのようになってしまうのです。私たちは、この「色づいたフィルター」を通して、外の世界を見ることになるため、特に、青や紫といった、波長の短い光が、このフィルターによって吸収・遮断され、網膜に届きにくくなります。その結果、視界全体が、黄色みがかって見え、色彩の鮮やかさが、失われてしまうのです。この変化は、何年、何十年という、非常に長い年月をかけて、ゆっくりと進行するため、多くの人は、自分自身の色の感覚が、変化していることに、全く気づきません。「昔は、もっと空が青かった気がする」といった、漠然とした記憶として、残っているだけです。そして、白内障の手術を受けて、濁った水晶体を取り除き、透明な眼内レンズに入れ替えた時、多くの患者さんが、その視界の「青々とした鮮やかさ」に、声を上げて驚きます。「世界は、こんなにも、色彩に満ちていたのか」と。それは、失われていた、本来の色覚を、取り戻した瞬間なのです。