網膜剥離の手術が無事に成功し、剥がれていた網膜が、元の位置に、再び、接着(復位)した。これで、一安心、と誰もが思うでしょう。しかし、網膜剥離の治療は、これで終わりではありません。手術後の視力が、どの程度まで回復するかは、患者さん一人ひとり、そして、手術前の状態によって、大きく異なります。特に、その後の視力予後を決定する、最大の要因は、手術前に、剥離が「黄斑(おうはん)」にまで、達していたかどうかです。もし、手術が間に合い、黄斑が剥がれる前に、網膜を復位させることができた場合(macula-on)、多くの場合、手術前と、ほぼ同等の、良好な視力を、取り戻すことが期待できます。しかし、もし、手術前に、すでに黄斑が剥がれてしまっていた場合(macula-off)、たとえ、解剖学的に、網膜が、きれいに元の位置に戻ったとしても、視機能の回復には、限界があります。黄斑にある、光を感じる最も重要な細胞「視細胞」は、一度、土台の組織から剥がれ、栄養が途絶えると、非常に短時間のうちに、不可逆的な(元に戻らない)ダメージを受けてしまうからです。黄斑が剥がれていた期間が、長ければ長いほど、そのダメージは深刻になります。そのため、手術後の視力は、0.1や、0.2程度に留まったり、あるいは、視力は、ある程度回復しても、物が歪んで見える「変視症」や、視野の中心が、暗く見える「中心暗点」、そして、色の感覚の異常といった、後遺症が、生涯にわたって、残ってしまう可能性が、高くなります。また、手術の影響で、白内障が進行したり、眼圧が上昇したり、あるいは、再剥離を起こしたりといった、合併症のリスクも、ゼロではありません。網膜剥離の治療における、真のゴールは、単に、失明を回避することだけではありません。いかにして、黄斑を守り、質の高い視機能を、温存するか。そのための、一刻も早い、受診と治療が、何よりも重要となるのです。