白内障と診断されても、すぐに手術が必要となるわけではありません。視界のかすみが、まだごく軽く、日常生活に、ほとんど支障がない初期の段階では、まず、その進行を、できるだけ緩やかにすることを目的とした「薬物療法」、主に「点眼薬(目薬)」による治療が、選択されます。これは、手術という、より侵襲的な治療を、先延ばしにするための、保存的なアプローチです。現在、日本で、白内障の進行予防薬として、保険適用で処方されている点眼薬には、主に二つの種類があります。一つは、「ピレノキシン製剤(商品名:カリーユニ®点眼液など)」です。これは、水晶体のタンパク質が、変性して、不溶性の物質に変わるのを、阻害する作用を持つとされています。もう一つが、「グルタチオン製剤(商品名:タチオン®点眼液など)」です。グルタチオンは、もともと体内に存在する、強力な抗酸化物質であり、水晶体を、酸化ストレスから守ることで、その透明性を維持する働きがあると、考えられています。これらの点眼薬は、白内障の、いわば“原因物質”の働きを、ブロックすることで、水晶体の濁りが、進むスピードを、遅らせる効果が、期待されます。しかし、ここで、極めて重要な「限界」を、冷静に、認識しておく必要があります。それは、これらの点眼薬の効果は、あくまで「進行予防」に限定されており、しかも、その効果は、必ずしも、全ての人に、明確に現れるわけではない、ということです。科学的なエビデンス(証拠)のレベルも、必ずしも、高いものではなく、その進行抑制効果は、限定的である、と考える専門家も少なくありません。そして、何よりも、一度、白く濁ってしまった水晶体を、これらの薬で、再び、元の透明な状態に「戻す(治す)」ことは、絶対にできないのです。薬物療法は、あくまで、時間との戦いにおいて、少しでも、手術までの時間を稼ぐための、あるいは、何らかの理由で、手術が受けられない場合の、対症療法的な選択肢である、という、その役割と限界を、正しく理解しておくことが、治療と向き合う上で、非常に重要となります。