「眼圧が高いことが、緑内障の原因だ」。これは、基本的な事実ですが、実は、この常識だけでは、説明できない、非常に厄介で、かつ、日本人に最も多いタイプの緑内障が存在します。それが、「正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma, NTG)」です。正常眼圧緑内障とは、その名の通り、眼圧測定値が、常に、統計的な正常範囲である21mmHg以下であるにもかかわらず、緑内障に特徴的な、視神経の損傷と、視野の欠損が、進行していく病気です。実際、日本人緑内障患者の、実に7割以上が、この正常眼圧緑内障であると報告されており、これは、欧米に比べて、著しく高い割合です。なぜ、眼圧が高くないのに、視神経は、ダメージを受けてしまうのでしょうか。その明確な原因は、まだ完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が考えられています。その最も有力な説が、「視神経の脆弱(ぜいじゃく)性」です。つまり、日本人を含む東アジア人の視神経は、遺伝的に、欧米人に比べて、眼圧による圧力に対して、構造的に「弱い」のではないか、という考え方です。そのため、統計的には「正常」とされるレベルの眼圧であっても、その人にとっては、相対的に「高すぎる」圧力となり、視神経が、耐えきれずに、傷ついてしまうのです。また、視神経への「血流障害」も、大きな原因として考えられています。冷え性や、低血圧、あるいは、睡眠時無呼吸症候群などによって、視神経乳頭部への血流が、慢性的、あるいは、一時的に低下することが、視神経を、虚血状態に陥らせ、眼圧によるダメージを、さらに受けやすくしているのではないか、と推測されています。この正常眼圧緑内障の治療も、基本的には、通常の緑内障と同じです。たとえ、眼圧が正常範囲であっても、そこから、さらに眼圧を30%程度下げる(目標眼圧を設定する)ことで、病気の進行を、有意に遅らせることができる、ということが、大規模な臨床研究によって、証明されています。眼圧は、高くなければ安心、というわけではない。それが、この病気が、私たちに教えてくれる、重要な教訓です。
正常眼圧緑内障、なぜ眼圧が正常なのに悪化するのか