日本の失明原因の第三位に挙げられる「網膜色素変性症」は、緑内障や、糖尿病網膜症とは、少し、趣を異にする病気です。これは、生活習慣病ではなく、遺伝子の異常によって、網膜にある、光を感じる「視細胞(桿体細胞と錐体細胞)」が、長い年月をかけて、ゆっくりと、しかし、着実に、その機能を失っていく、進行性の、遺伝性疾患です。現在、根本的な治療法は、まだ確立されておらず、国の指定難病となっています。この病気の、最も特徴的な初期症状は、「夜盲(やもう)」、いわゆる「鳥目」です。暗い場所で、物が見えにくくなったり、明るい場所から、急に暗い場所に入った時に、目が慣れるのに、非常に長い時間が、かかったりします。これは、主に、暗い場所での視力(暗所視)を担っている「桿体細胞(かんたいさいぼう)」が、最初に、障害されるためです。そして、病気が進行するにつれて、視野、つまり、見える範囲が、周辺部から、徐々に、狭くなっていく「視野狭窄(しやきょうさく)」が、現れ始めます。まるで、細い筒の中から、世界を、覗いているような、あるいは、トンネルの中から、外を見ているような、特有の見え方(トンネルビジョン)になります。この視野狭窄は、何十年という、非常に長い年月をかけて、ゆっくりと進行するため、患者さん自身は、その変化に、なかなか気づきにくいこともあります。しかし、足元の障害物に、気づかずに、つまずいたり、横から出てきた人や、車に、ぶつかりそうになったりと、日常生活に、徐々に、支障をきたすようになります。最終的には、中心部の、ごくわずかな視野だけが、残る状態となり、視力そのものも、低下していきます。この病気は、原因となる遺伝子が、多数、発見されており、そのタイプによって、進行のスピードや、症状の現れ方も、様々です。現時点では、進行を、完全に止める治療法はありませんが、ビタミンAの、大量療法や、遮光眼鏡の使用など、進行を、わずかでも、遅らせるための、対症療法が行われます。また、iPS細胞を用いた、再生医療や、遺伝子治療といった、未来の治療法への研究が、世界中で、精力的に進められています。
視野がゆっくりと欠けていく、遺伝性の難病「網膜色素変性症」